一般的に、会社経営と聞くと株式会社や有限会社(※)を最初にイメージする方が多いのではないでしょうか?また、最近では合同会社も結構増えて来ましたよね。
※:有限会社は、2006年5月1日の会社法施行日以降新たに設立する事は出来ず、現在は「特例有限会社」として姿を残しています。(参考:会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)
しかし、法人形態には「一般社団法人」というものも有るって知っていますか?何だか公益性の高そうな感じがしますが、実際はそうとは限らず株式会社と同様に営利目的の業務をしているケースも多いです。
ここでは、「一般社団法人とはそもそも何か」、「一般社団法人を使って営利業務を営むメリットやデメリット」などについて見ていきましょう。
一般社団法人とは?基本的には営利を目的としない非営利法人!
一般社団法人とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、同法)」に基づいて設立された法人の事です。
参考:似た名前の法人に「一般財団法人」が有りますが、一般社団法人は「人」の集まりを重視して活動するのに対し、一般財団法人は「財産」の集まりを重視して活動する、という違いが有ります。
一般社団法人という名前を聞くと、「公益性が高い事業をしているんだろうなぁ」「自分が設立したり運営するなんてとんでもない!」というイメージを持つかもしれませんが、そのイメージはちょっと間違っています。
確かに、基本的に一般社団法人は「営利(儲け)を目的とはしていない非営利の法人(※)」で、株式会社は営利を目的とした法人です。しかし、事業として何をするかについての制限は無く、一般社団法人でも営利事業を営む事が出来ます。
※:ここでいう非営利とは、後述する「利益の分配をしない」事を意味しており、ボランティアや無償で活動をする事とは違います。また、非営利という点では「NPO法人(特定非営利活動法人」と同じですが、NPO法人の方が許認可や業種等での制限が厳しいです。
従って、「一見、営利目的ではない感じがするけど営利目的の事業をしている事も有る」のが、一般社団法人なのです。
なお、一般社団法人のうち、公益法人認定法に基づく公益認定を受けた法人を「公益社団法人」、それ以外の法人を「一般社団法人」と呼びます。
ちなみに、従来は民法によって「社団法人」が規定されていましたが、平成20年の公益法人制度改革によって社団法人は廃止され、代わりに「公益社団法人」と「一般社団法人」とが誕生しました(参照元:内閣官房行政改革推進室)。
参考:従来の社団法人は設立に許可が必要でしたが、現在の一般社団法人は「準則主義」によっているので、一定の手続及び登記を経れば誰でも設立する事が出来ます。
法人税の計算は基本的に株式会社や合同会社と同じ!
一般社団法人は、税務上の区分として以下の3つに分かれています。
- 公益型
- 非営利型
- 普通法人型
「公益型」は公益社団法人に、「非営利型」は一般社団法人のうち非営利型法人の要件に該当するものに適用され、法人税法上定められた34の収益事業(法人税法施行令第5条第1項)から生じた所得に対してしか課税されません。
一方で、非営利型法人に該当しない一般社団法人に対しては「普通法人型」が適用され、全ての所得が課税対象となります。つまり、普通法人型の場合は株式会社や合同会社と税制上変わる所は無いという事ですね。
なお、非営利型法人の要件を満たす法人とは、以下の①又は②の条件を全て満たした一般社団法人の事をいいます(法人税法第2条九の二、法人税法施行令第3条)。
①非営利性が徹底された法人
1 剰余金の分配を行わないことを定款に定めていること。
2 解散したときは、残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与す
ることを定款に定めていること。
3 上記1及び2の定款の定めに違反する行為(上記1、2及び下記4の要件に該
当していた期間において、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを含み
ます。)を行うことを決定し、又は行ったことがないこと。
4 各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数
の3分の1以下であること。②共益的活動を目的とする法人
1 会員に共通する利益を図る活動を行うことを目的としていること。
2 定款等に会費の定めがあること。
3 主たる事業として収益事業を行っていないこと。
4 定款に特定の個人又は団体に剰余金の分配を行うことを定めていないこと。
5 解散したときにその残余財産を特定の個人又は団体に帰属させることを定款
に定めていないこと。
6 上記1から5まで及び下記7の要件に該当していた期間において、特定の個人
又は団体に特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと。
7 各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数
の3分の1以下であること。
一般社団法人のメリット
ここでは、一般社団法人を設立するメリットを、株式会社や合同会社と比較する形で見ていきましょう。
設立コストが安い!
株式会社を設立するには、以下の様な費用がかかります。
- 定款認証費用(5万円)
- 登録免許税(最低15万円)
- 収入印紙(4万円)
従って、自分で設立した場合でも24万円程度は必要となります(司法書士に設立を依頼すると、電子定款を採用するので収入印紙は不要ですが、その代わりに報酬が発生します。)
一方で、一般社団法人の場合は、登録免許税が6万円(登録免許税法別表第一)で収入印紙も電子定款かどうかに関わらず不要なので、実費だけで考えると11万円(5万円+6万円)で設立可能です。
設立コストに関してみると、一般社団法人の方が株式会社よりも有利ですね。なお、合同会社の設立コストは約10万円なので、若干合同会社の方が安く済みます。
持ち分が無い!
株式会社や合同会社の場合、出資者は自分の出資に応じて株式や出資金といった「持ち分」を有しています。
その結果、出資者が死亡した際にその出資持ち分が相続財産となり、持ち分を相続した方は会社の価値に応じて相続税を支払わなければなりません。
従って、個人の財産を会社に移して相続税の節税をしようと思っても、株式として評価をする事になるので、結局は相続税がかかってしまうのです。
しかし、一般社団法人には持ち分(資本金)という概念が有りません。従って、一般社団法人内に蓄積した財産は誰のものでもないのです。一般社団法人に財産が有ったとしても、個人に対して相続税はかからないので相続税対策として有効、という事ですね。
なお、持ち分が無いので有れば、「代表者が死亡した後はどうなるの?」と不安に思うかもしれませんが、定款で一般社団法人の理事になる資格を親族に限定しておけば、法人に蓄積された財産を相続手続を経る事無く親族に承継させる事が出来ます。
配当が出来ない!
投資家が法人に対して出資する理由の1つに値上がり益(キャピタルゲイン)や配当収入(インカムゲイン)を得る、という点が挙げられます。といっても、中小企業の経営者の場合、株で儲けようと思って法人設立をしている訳ではないのであまり関係は無いですけどね・・・。
しかし、一般社団法人はそもそも配当をする事が出来ません(同法第11条第2項、第35条第3項)。これが、なぜ一般社団法人を作るメリットになるのでしょうか?
これは、法人を解散するときに関係して来ます。株式会社の場合、解散をすると過去に溜まった財産のうち、資本金を超える部分に関しては、出資者に対して配当金として分配する事になります(これを「みなし配当」といいます。)
そして、この配当金は「配当所得」として所得税や住民税の課税対象です。つまり、過去に儲かっていた会社を解散・清算すると出資者は税金を取られてしまう、という訳ですね。
しかし、一般社団法人は利益が出たとしても剰余金の分配をする事は出来ず、各々に持ち分がないので解散時に社員が分配請求をする事は出来ません。
但し、社員に分配をすることは出来ないものの、定款で解散時に特定の人に分配する旨を定めておけば、その人に財産を渡す事が出来ます。
そして、定款に定めが無い場合は社員総会の決議で分配相手を決める事が出来るのです。つまり、解散時に開催する最後の社員総会で「残余財産を社員に分配する」と決議すれば、最終的に残余財産を社員へ分配する事が可能(と考えられている)、という事ですね。
なお、一般社団法人の清算分配金については詳細な規定が無いですが、個人の一時所得になると考えられています。
一時所得は、総収入金額から収入を得るために支出した金額を引いた金額から最高50万円の特別控除を差し引き、残額をさらに2分の1にした金額に対して課税されます。(参照元:国税庁「タックスアンサー 一時所得」)
つまり、配当所得と比べると圧倒的に税金が優遇されているので、株式会社や合同会社よりも一般社団法人の方がメリットは有るという訳ですね。
資本金が不要!
一般社団法人には、株式会社や合同会社などと異なり出資という概念が無いです。その代わりに基金の拠出というものが有るのですが、これは絶対に必要という訳では有りません。
従って、設立時には設立コスト以外に資本金としてお金を用意して置く必要がないのです。
なお、会社法施行以降は株式会社も資本金1円でも設立する事が出来る様になったので、それほど大きなメリットではないかもしれませんね。
とはいえ、株式会社で資本金が1円だったら対外的な信用性の面では厳しいですからね。その点、一般社団法人では特に出資に関して気にする必要が有りません。
一般社団法人のデメリット
一方で、一般社団法人を作るデメリットとしてはどの様なものが有るのでしょうか。
設立には社員2名以上が必要!
一般社団法人を設立するには、社員(※)2名以上と理事1名以上が必要です(同法第10条)。株式会社は1人でも設立する事が出来ますが、一般社団法人は最低でも設立時に2人以上がいなければなりません。
※:株式会社でいう株主の様な立場。個人でも法人でもなる事ができ、社員と理事を兼任する事も可能です(法人が理事に就任するのは×)。また、親族でも大丈夫です。
但し、設立時に2人以上必要なだけで、その後運営をするときは1人で構いません。
ちなみに、株式会社の経営者は「取締役」で、年に1回株主に対する決算報告などの為に「株主総会」を開催しますよね。ところが、一般社団法人の場合は、取締役ではなく「理事」となり、株主総会ではなく「社員総会」と呼びます。
税制の優遇を受けられるとは限らない
これは、上述した事と同じですが、中には「一般社団法人を作れば必ず税制上の優遇を受けられる」と思っている人がいるかもしれません。
しかし、税制上のメリットが有るのは、「公益社団法人か非営利型法人の要件を満たしている場合のみ」です。営利業務を行っているだけの一般社団法人は、特に税制上のメリットは有りません。
これはデメリットというよりは、「必ず税制上のメリットが受けられる訳では無いですよ」という注意ですね。
一昔前程の信頼性が無い
一昔前までは、社団法人には設立時に監督官庁の認可が必要だったため、世間からの信頼が有りました。
しかし、今は誰でも簡単に一般社団法人を設立する事が出来る様になったので、法人を設立しただけで信頼性が得られるという事にはならないでしょう。
理事の任期が2年!
一般社団法人の理事は任期が2年以内となっています。定款や社員総会の決議によって任期を短縮する事は出来ますが、2年より長くする事は出来ません(同法第66条)。
そして、任期が来ると理事を変更するか重任するかを決める事になりますが、仮に重任となったとしても登記の変更が必要となります。この時に必要な登録免許税は1万円です(司法書士に登記を依頼する場合は別途報酬が必要。)
株式会社の場合でも重任登記は必要ですが、役員の任期は10年まで設定する事が可能です。役員の任期が10年の株式会社の場合、10年で1万円しか重任登記費用がかからないですが、一般社団法人の場合は10年で5万円が必要となります。
従って、重任登記の費用という点では一般社団法人の方が損ですね。
参考:合同会社の業務執行社員には任期が無く、重任登記の必要も有りません。
公告が必要!
一般社団法人は、株式会社と同様に1事業年度が終わると、決算内容を官報や日刊新聞師、ホームページ上などで公告しなくてはなりません(同法第128条・第331条)。
中小企業の場合、公告がないがしろにされているケースも多いですが、公告は義務とされており違反すると100万円過料が科される事になっています(同法第342条第2項)
但し、一般社団法人は主たる事務所に掲示板を設置して、そこに決算内容を公告するという方法でもOKです。従って、公告の方法自体は簡単で殆どお金もかからないので、大きなデメリットという程ではないですね。
なお、合同会社は公告が不要です。
FX法人で一般社団法人を作る意義
一般社団法人の概要のところで書いた様に、世間は一般社団法人に対して何となく公益性が高そうなイメージを持っています。
しかし、FX法人の場合、世間に公益性が高そうだというイメージを持ってもらう必要は有りません。それに、FX自体が営利事業なので税制の優遇も受けられません。従って、FX法人を一般社団法人で作る意義が有るとすれば、メリットのところで書いた相続税の対策をする場合でしょうね。
それ以外では、あまりFX法人を一般社団法人で作るメリットはないでしょう。
なお、一般社団法人でFX口座を作ろうとすると、業者に断られるケースも有る様です。FX業者は基本的に株式会社か合同会社を前提に考えているでしょうから、一般社団法人で申請されると口座開設の審査時に悩んでしまう事が原因の様ですね。
まとめ
いかがでしたか?一般社団法人は、皆さんが抱いているイメージとは少し違い、より身近なものだという事が分かりましたね。
設立コストが安いので、持ち分が無い事や配当が出来ないことなどをメリットとして捉え、うまく活用してみてはどうでしょうか。
最後に、一般社団法人と株式会社(合同会社)の特徴を一覧にして比較しておきましょう。
項目 | 一般社団法人 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|---|
設立に必要な人数 | 最低2人 | 1人 | 1人 |
役員(理事)の任期 | 2年以内 | 10年以内 | 無し |
公告 | 必要 | 必要 | 不要 |
設立費用 | 約11万円 | 約24万円 | 約10万円 |
重任登記 | 必要 | 必要 | 不要 |
資本金(基金) | 不要 | 1円〜 | 1円〜 |