LLP(有限責任事業組合)って知っていますか?ビジネスの経営の形態というと、個人事業主や株式会社・合同会社などが一般的ですが、LLPも経営に利用する事が出来ます。
しかし、知名度が低い事もあってか、LLPの内容やメリット・デメリットについて知らない方も多い様ですね。
ここでは、そもそもLLPとは何なのか、株式会社等ではなくLLPを作るメリット・デメリットなどについて見ていきましょう。
LLP(有限責任事業組合)とは?
LLP(有限責任事業組合)は、平成17年8月1日に施行された「有限責任事業組合契約に関する法律(以下、LLP法)」に基づいて設立された組合の事です。
英語表記は以下の通り。
- Limited・・・リミテッド(有限)
- Liability・・・ライアビリティ(責任)
- Partnership・・・パートナーシップ(組合)
参考:似た表記のものとしてLLCが有りますが、これは合同会社(Limited Liability Company)の事です。
なお、LLPは営利を目的とした共同事業の為の組織ですが、株式会社等と違って法人格が有りません。
参考:法人格は「法律上の人格」の事で、法人格が有ると権利や義務の主体となる事が出来ます。
主に産学連携事業や大企業同士、ベンチャー企業とその他企業などが連携して共同事業をする様な場合に活用されていますね。
参考:弁護士や公認会計士、税理士、行政書士、弁理士といった士業の方はLLPを活用して専門業務のサービスを提供する事は出来ません。
そんなLLPですが、具体的な特徴として以下の3点が挙げられます。
- 構成員全員が有限責任
- 損益や権限の分配が自由に決めることができるなど、内部自治が徹底している
- 構成員課税の適用を受ける
なお、これらの内容については後述する「LLP(有限責任事業組合)のメリット」で解説します。
LLPを作るのに必要な組合員の人数は?組合員の要件は?
LLPは、個人又は法人が営利目的の共同事業を営む為の組織なので、2人以上いれば作る事が出来ます。なお、構成員の要件は特に無く、個人でも法人でも構成員になる事が可能です。
但し、法人がLLPの組合員になる場合は、自然人(個人)を職務執行者として定める必要が有ります。
また、非居住者や外国法人でも組合員になる事が出来ますが、組合員のうち最低でも1人(若しくは1社)は、居住者又は内国法人でなければなりません。
LLPを立ち上げるまでのフローや必要な日数
LLPは、株式会社等と違って立ち上げるまでの手続はとてもシンプルで、以下の4ステップのみです。なお、設立までに必要な期間は概ね10日ほどです。
- 組合員同士での組合契約締結
- 出資金の払込(or現物出資の給付) ※
- 組合契約の登記申請(関連サイト:法務省「有限責任事業組合契約に関する登記手続」)
- 登記の完了・・・立ち上げ完了!
※:出資金額は1円以上であればいくらでもOK。最低2人の組合員が必要なので、最低の出資金額は2円となります。
ちなみに、LLPの設立時には印鑑登録をする事になりますが、LLPは組合員全員が業務執行の意思決定をするので、印鑑は「有限責任事業組合○○ 組合員之印」とするのが一般的です。
LLPの設立費用
LLPを立ち上げるのに最低限必要なコストは登録免許税の6万円のみです。
参考に、株式会社をや合同会社を設立する際のコストと比較してみましょう。
LLP | 株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|---|
登録免許税 | 60,000円 | 150,000円 | 60,000円 |
定款認証手数料 | 0円 | 50,000円 | 0円 |
合計 (電子定款の場合) | 60,000円 | 190,000円 | 60,000円 |
収入印紙代 | 0円 | 40,000円 | 40,000円 |
合計 (普通定款の場合) | 60,000円 | 240,000円 | 100,000円 |
LLPの場合は、定款の認証は不要ですし、組合契約書には印紙税も課税されないので、株式会社の設立コストと比べるとかなり安いですね。
但し、LLP契約の締結や登記手続を弁護士や司法書士等の専門家に依頼した場合は、別途報酬が必要となります。
LLP(有限責任事業組合)のメリット
以下ではLLPを作るメリットについて見ていきましょう。
構成員全員が有限責任
「有限責任」とは、出資者(組合員)が自分の出資した金額の範囲内でしか責任を負わない、という制度です。株式会社の株主と同じですね。
万が一、事業が失敗して負債を抱えた状態で倒産となったとしても、出資者は個人の財産から債務を返済する義務は有りません。そういう意味では、構成員を募りやすいといえますね。
とはいっても、これはあくまでも法的な枠組みに過ぎないので、現実的にはそう簡単な話ではないでしょうね・・・。特に融資の場合は個人保証を求められるケースが殆どなので、実質的には有限責任とは言い難いです。
参考:有限責任の反対は「無限責任」です。無限責任の場合は、債務を出資者個人の財産から返済しなければなりません。
損益や権限の分配が自由に決めることができるなど、内部自治が徹底している
「内部自治が徹底している」とは、法律によってではなく組合員同士で組織の内部ルールが決められている事を意味します。
株式会社の場合は、出資比率に応じて損益の分配や議決権の多寡が決まりますが、LLPは必ずしも出資比率に従う必要は有りません。
また、原則として構成員全員が業務執行をするので、取締役会や監査役を置く必要もないです。出資する人と経営者が一緒であれば、それを監視する機能は不要だからですね。
つまり、基本的に「総構成員の同意が有れば何でもいい」という事になっているので、出資比率にとらわれない柔軟な組織設計・運営が可能なのです。
但し、これは逆に考えると、組合の内部で揉め事が起こった時でも全員一致の決議が必要なので、業務執行に支障が出てしまう事も考えられますね・・・。
構成員課税(パススルー課税)の適用を受ける
LLPを作る最大のメリットは、この「構成員課税」という点でしょうね。
「パススルー課税」とも言われ、LLPの行う事業で利益が出たとしても組織の段階での課税はされず、利益が構成員に分配された時点で、構成員に直接課税される事を意味しています。
LLPには法人格が無いので、法人として課税はされないです。しかし、会計や報告をLLPとして行い、その会計報告に基づいて出資者が税務申告をしなければなりません。
参考:構成員が法人の場合は、その法人には法人税が課税され、個人の場合は所得税が課税されます。
株式会社等の場合、所得に対して法人税等が課税され、税引後の利益を元に出資者へ配当しますが、その配当金に対しても課税されるという二重課税の問題が有ります。この点、LLPでは構成員のみに損益が帰属するので、二重課税の問題が有りません。
また、LLPで生じた損益は構成員に帰属する(個人の場合は基本的に事業所得)ので、赤字になった場合は他の所得と通算する事が可能、というメリットが有りますね。
参考:LLPでは、決算時に「貸借対照表・損益計算書・付属明細書」を作成します。
但し、利益の金額によっては株式会社等を作って役員報酬として払い出した方がトータルの税額が少なく済む事も有るので、「必ずしもパススルー課税が得という訳ではない」事は知っておきましょう。
そしてLLPの利益が分配されるのは「事業年度末」です。個人の課税期間は1月1日〜12月31日と決まっているので、LLPを活用して個人とLLPとで課税期間をずらせば、初年度に限ってですが課税の繰延をする事が可能です。
また、個人とLLPの課税期間がズレていれば、そのズレを利用して節税策を利用することも可能となるでしょう。
LLP(有限責任事業組合)のデメリット
では、LLPのデメリットにはどの様なものが有るでしょうか?
知名度が低い!
LLPのデメリットと言えば、なんといっても知名度が低い事ですね。知名度が低いので、外部からの信用度という点でも株式会社等と比べると劣るでしょう。
また、専門書もあまり販売されておらず、司法書士や税理士等の専門家でも実務についてあまり詳しくない事が多い様です。
LLPでは代表取締役等の肩書きは付けられない!
代表取締役や取締役といった肩書きは、会社法上の役職です。LLPは組合であって会社法の適用を受けないので、これらの役職名を名刺等に使う事は出来ません。
ではどうなるか?LLPの組合員は、みな「構成員」となります。
なお、LLPには取締役がいないですし取締役会などの業務執行機関も無いので、「単純化された組織」という事がいえますが、これは裏を返すと「代表者が決められない」ともいえますね。
参考:LLPで金融機関の預金口座を開設する場合、名義人は「○○有限責任事業組合 代表 ○○」といった形になります。但し、これは金融機関によって扱いが異なる様なので、詳細は口座を開設しようとしている金融機関に確認する様にして下さい。
株式会社等への組織変更が出来ない
有限会社や合同会社の場合、事業拡大等の際に株式会社へ組織変更する事が可能です(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第45条・46条、会社法第781条)。
しかし、LLPは法人ではないですしLLP法に基づいて設立されるものなので、根拠法の違う株式会社や合同会社へ組織変更する事は出来ません。
株式会社にする場合は、面倒ですが一度LLPを解散してから改めて株式会社を設立する事になります(株式会社を設立して、LLPの事業を譲渡するのでもOK)。
LLPでFXの法人口座は開設出来る?
FXトレーダーは、節税や個人のレバレッジ規制を理由に法人化するケースが多いです。では、LLPでも法人のFX口座を開設する事が出来るのでしょうか。
この点、LLPには法人格がないので法人口座を開設するのは難しいでしょう。参考に、外為ファイネストでは以下の様な記載がされています。
全てのFX業者を確かめた訳では無いですが、基本的にLLPで法人口座を開設するのは難しいと思っておいた方が良いでしょうね。
ちなみに、仮にLLPで法人口座を開設で来たとしても、FXをLLPでするのはあまりオススメは出来ません。
というのも、レバレッジ規制の回避は可能(※)ですが、FXで出た利益は構成員に分配され総合課税の対象となります。個人でFXをしていれば申告分離課税となるので、税務上のメリットがあまり無いからですね。
※:個人よりは緩いものの、平成29年2月からは法人口座に対してもレバレッジ規制が有ります。(参考:FX法人口座のレバレッジ規制)
まとめ
いかがでしたか?LLP(有限責任事業組合)というもの自体を知らなかった方も多いでしょう。LLPのメリットとしていくつか挙げましたが、「敢えてLLPにする程ではないかも・・・。」と思った方も多いかもしれませんね。
設立コストも安くて済むのは良いですが、本当にLLPがビジネスの形態としてベストなのかどうかを考えて、設立する様にしたいですね。