個人事業主の方や、会社勤めの方で給与以外の所得が20万円を超えていたり医療費控除・住宅ローン控除等を受けたりする場合は、確定申告をしなければなりません。(参照元:国税庁「確定申告が必要な方」)
確定申告の際に、「税額控除と所得控除の違い」で悩んだ事は無いですか?
どちらも税金が安くなる点では同じなのですが、内容や税金に対する影響は異なるので混乱してしまう方が多いのでしょう。
ここでは、個人の方が受ける税額控除にどの様なものがあるか、また、税額控除と所得控除の違いについても見ていきましょう。
注:当該記事は、平成28年4月1日現在の法令等を基に執筆しています。
税額控除とは?
税額控除とは、課税所得金額に税率を掛けて算出した所得税の金額から、一定の金額を控除するものを言います。要は税金が安くなるという事ですね。
個人でも受けられる税額控除の代表的には以下のような控除があります。
- 配当控除
- 寄附金特別控除(政党等・認定NPO法人等・公益社団法人等)
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
(参照元:国税庁「タックスアンサー 税額控除」)
他にも、試験研究を行った場合の控除や機械等を取得した場合の控除など様々な控除制度がありますので、気になる方は上記国税庁リンクより確認してみて下さい。
以下で、代表的な税額控除の内容を解説していきますね。
参考:税額控除は税額が発生したときに使う制度なので、そもそも税額が発生していない方には適用する事が出来ません。また、その年に税額控除出来なかった場合、翌年に繰り越す事も出来ないです。
配当控除
株式や投資信託などに投資していると、剰余金の配当等を受ける事が有りますよね。
受け取った配当は配当所得として所得税の対象となる(※)のですが、そもそも法人等が配当をする場合、法人税が課された後で残った利益を株主等に分配する事になります。
※:配当は、「総合課税」「申告分離課税」「源泉徴収」のいずれかの方法で税金を払います。(関連記事:主要投資商品の利益及び配当等に対する所得区分と税率まとめ)
法人から法人税を徴収して、さらに配当を受け取った個人から所得税を徴収すると二重課税となってしまいますよね。
そこで、二重課税の問題を解決する為に登場したのが「配当控除」なのです。
参考:配当控除を受ける際には証券会社等から送られて来る「配当金の支払通知書」が必要となるので、あらかじめ用意しておきましょう。
配当控除の対象
配当控除の対象となるものには、以下の様なものが有ります(国内に本店の有る法人から受け取るものに限る)。
- 剰余金の配当
- 利益の配当
- 剰余金の分配
- 証券投資信託の収益の分配
要は、「確定申告時に総合課税の適用を受けた配当所得が配当控除の対象」という事です。
参考までに、以下のものは配当控除の対象外です。
・基金利息
・私募公社債等運用投資信託等の収益の分配に係る配当等
・国外私募公社債等運用投資信託等の配当等
・外国株価指数連動型特定株式投資信託の収益の分配に係る配当等
・特定外貨建等証券投資信託の収益の分配に係る配当等
・適格機関投資家私募による投資信託から支払を受けるべき配当等
・特定目的信託から支払を受けるべき配当等
・特定目的会社から支払を受けるべき配当等
・投資法人から支払を受けるべき配当等
・確定申告不要制度を選択したもの
配当控除額の算出方法
配当控除は、課税総所得金額等の額によって計算式が変わります。
まず、「その年の課税総所得金額等が1,000万円以下の場合」は、以下の計算式で配当控除額を算出します。
参考:課税総所得金額等とは、「課税総所得金額」「土地等に係る課税事業所得等の金額」「課税長期(短期)譲渡所得の金額」「上場株式等に係る課税配当所得の金額」「株式等に係る課税譲渡所得等の金額及び先物取引に係る課税雑所得等の金額」の合計額の事です。
次に、「その年の課税総所得金額等が1,000万円を超える場合(配当所得以外の所得だけで1,000万円を超えている)」は、以下の計算式によって計算します。
最後に、「その年の課税総所得金額等が1,000万円を超える場合(配当所得を加えると1,000万円を超える)」の配当控除は、以下の計算式によって算出した額の合計です。
- 「配当所得の金額のうち、課税総所得金額等から1,000万円を控除した金額に達するまでの金額」×5%
- 「配当所得の金額のうち、上記以外の金額」×10%
「計算式だけ見ても意味が分からない!」という方も多いでしょうから、実際の数値を使って見てみましょう。
配当所得:250万円
課税総所得金額:800万円(ケース1)、1,100万円(ケース2)、1,300万円(ケース3)
ケース1
課税総所得金額等が1,000万円以下なので、配当所得の10%が配当控除となります。
従って、25万円(250万円×10%)ですね。
ケース2
配当所得を加えると1,000万円を超えるので、1,000万円までの部分と1,000万円超の部分に分けて計算をします。
1,000万円を超える部分には10%なので、今回は配当所得のうち100万円が5%の対象ですね。残りの150万円は10%です。
従って、配当控除は20万円{100万円×5%+(250万円−100万円)×10%}ですね。
ケース3
配当所得以外の所得だけで1,000万円を超えているので、配当所得の5%が配当控除となります。
従って、12.5万円(250万円×5%)ですね。
注:配当所得のうち証券投資信託の収益の分配金については、配当控除の控除率が異なるケースもあります(参照元:国税庁「タックスアンサー 配当所得があるとき(配当控除)」。
寄附金特別控除
特定の寄附金を支出した場合、寄附金特別控除(税額控除)を受ける事が出来ます。「特別」を取ると寄附金控除になりますが、その場合は所得控除です。名前が似ているので間違えない様に注意が必要ですね。
寄附金特別控除は、支払先によって以下の3種類に分かれます。
- 政党等に対する寄附
- 認定NPO法人等に対する寄附
- 公益社団法人等に対する寄附
以下で1つずつ内容や控除額の計算方法を見ていきましょう。
なお、3つの寄附金合計は、原則として「所得金額の40%相当額が限度」となります。また、計算式中に登場する「2千円」は、寄附金控除と寄附金特別控除とを合わせた金額です
参考:いずれも、計算結果のうち100円未満の端数は切捨します。
政党等に対する寄附
個人の方が、平成7年1月1日〜平成31年12月31日までの間に、政党又は政治資金団体に対する政治活動に関する一定の(※)寄附金を支払った場合、税額控除を受ける事が出来ます。
※:「政治資金規正法第3条第2項に規定する政党」及び「政治資金規正法第5条第1項第2号に規定する政治資金団体に対する政治活動」に関する寄附(同法の規定に違反するもの&その寄附をした人に特別の利益が及ぶと認められるものは除く。)で、政治資金規正法第12条又は第17条の規定による報告書により報告されたもの。
なお、政党の党費や後援会の会費、労務・事務所の無償提供などは寄附金に該当しないので、政党等寄附金特別控除の対象外です。
政党等寄附金特別控除の金額は、以下の計算式によって算出します。
注:その年分の所得税額の25%相当額が限度
政党等寄附金特別控除を受けるには、税額控除に関する事項を確定申告書に記載した上で、「政党等寄附金控除特別控除額の計算明細書」と総務大臣又は都道府県の選挙管理委員会等の確認印のある「寄附金(税額)控除のための書類」をセットで提出する必要が有ります。
参考:「寄附金(税額)控除のための書類」を確定申告書提出時までに入手出来ない場合、寄附金の領収書(写し)を添付して提出し、後日書類が入手でき次第税務署に提出するのでもOKです。
(参照元:国税庁「タックスアンサー 政党等寄附金特別控除制度」)
認定NPO法人等に対する寄附
「所轄庁(都道府県知事or指定都市の長)の認定を受けた認定NPO法人(※)又は国税庁長官の認定を受けた旧認定NPO法人」に対して寄附をした場合、以下の計算式によって算出した金額について税額控除額を受ける事が出来ます。
※:仮認定を受けた仮認定NPO法人でもOKです。
注:公益社団法人等に対する寄附金特別控除額との合計は、その年分の所得税額の25%相当額が限度。
認定NPO法人等寄附金特別控除を受ける場合、税額控除に関する事項を確定申告書に記載した上で、以下の事項が記載された書類(寄附者の住所、氏名が記載されたもの)と寄附金の明細書をセットで提出する必要が有ります。
- 寄附金を受領した旨
- 寄附金が認定NPO法人の主たる目的である業務に関連する旨
- 寄附金の額及び受領年月日
(参照元:国税庁「タックスアンサー 認定NPO法人に寄附をしたとき」)
公益社団法人等に対する寄附
公益社団法人等に対して寄附をした場合、以下の計算式によって算出した金額について寄附金特別控除を受ける事が出来ます。
注:認定NPO法人等に対する寄附金特別控除額との合計は、その年分の所得税額の25%相当額が限度。
なお、公益社団法人等とは、以下の法人のうち「運営組織や事業活動が適正&市民から支援を受けている事について一定の要件を満たしたもの」を指しています。
- 公益社団法人及び公益財団法人
- 私立学校法第3条に規定する学校法人及び同法64条第4項の規定により設立された法人
- 社会福祉法人
- 更生保護法人
- 国立大学法人、公立大学法人、独立行政法人国立高等専門学校機構又は独立行政法人日本学生機構 ※
※:寄附金が学生等に対する就学支援の為の事業に充てられる事の確実であるものが対象。
公益社団法人等寄附金特別控除を受けるには、確定申告書に税額控除に関する事項を記載した上で、以下の書類と寄附金の明細書をセットで提出する必要が有ります。
- 寄附金を受領した法人の名称・寄附金を受領した旨・寄附金がその法人の主たる目的である業務に関連する寄附金である旨・寄附金の額及び受領年月日を証する書類(寄附者の住所、氏名が記載されたもの)
- 所轄庁が発行した、その法人が税額控除対象法人であることを証する書類の写し
(参照元:国税庁「タックスアンサー 公益社団法人等に寄附をしたとき」)
寄附金は所得控除と税額控除の選択適用が可能!
寄附金特別控除の計算方法について紹介しましたが、上で出て来た3つの寄附金については、寄附金控除として所得控除を受けるか、寄附金特別控除として税額控除を受けるか、どちらか有利な方を選ぶ事が出来ます。
注:申告時に税額控除を選択したものの、後で寄附金控除の方が有利だと判明した様な場合(逆も同じ)、更正の請求によって選択替えをする事は認められません。更正の請求は税金の計算が法律の規定に従っていなかった場合や、計算に誤りが有った場合に認められるもので、税額控除を選んだ事自体はいずれにも該当しないからです。
とは言っても、寄附金や課税所得の金額によって有利不利が分かれるので、その判断はなかなかパッとする事が出来ません。
試しに、簡単な例でどちらが有利なのか見てみましょう。
所得合計が300万円と1,000万円のケースで、政党等に50万円と100万円を寄附した場合の所得税額を考えてみます(分かりやすくする為に、所得控除は基礎控除の38万円のみ。)
まず、寄付金が50万円だった場合の所得税額は以下の通り。
所得控除 | 税額控除 | |
---|---|---|
所得300万円 | 114,700 | 123,400 |
所得1,000万円 | 1,474,260 | 1,489,200 |
次に、寄付金が100万円だった場合の所得税額は、以下の通りです。
所得控除 | 税額控除 | |
---|---|---|
所得300万円 | 81,100 | 123,400 |
所得1,000万円 | 1,347,060 | 1,339,200 |
所得や寄付金の額によって、微妙に税額が変わっている事が分かりますね。一度申告をしてしまうとやり直す事が出来ないので、どちらが得なのかあらかじめ試算してから申告をした方が良さそうですね。
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除
個人の方(※)が住宅ローン等を利用して、平成31年6月30日までに自分が住む為のマイホームを新築したり取得又は増改築等をした場合、税額控除を受ける事が出来ます。いわゆる「住宅ローン控除」ですね。
※:平成28年4月1日以降は、非居住者(国内に住所が無い、又は、引き続き1年以上国内に居所が無い方)も住宅ローン控除を利用する事が出来ます。
家を買ったら毎月住宅ローンを返済していくので、資金繰りが大変になります。住宅ローン控除を使うと住宅ローンの金額によってはかなりの金額が還付される事になるので、必ず利用したいですね。
住宅借入金等特別控除の適用要件
住宅ローン控除の適用を受けるには、以下の要件を全て満たす必要が有ります。
- 新築又は取得日から6ヶ月以内に実際に居住を開始し、税額控除を受ける年の12月31日まで引き続き住んでいる(※1)
- 税額控除を受ける年の合計所得金額(※2)が3,000万円以下
- 住宅の登記簿上の床面積(※3)が50㎡以上で、その2分の1以上が自己の居住用
- 住宅ローン(※4)は10年以上の分割返済で、居住用建物及び土地を取得する為のものである
- 居住を開始した年とその前後2年の計5年の間に、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例などの適用を受けていない
※1:居住用の住宅が2つ以上有る場合は、メインの住宅に限られます。セカンドハウスや別荘などは対象外です。
※2:「事業所得、不動産所得、利子所得、給与所得、総合課税の配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)」+「総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)を2分の1にした金額」+退職所得金額+山林所得金額
※3:マンションの場合は専有部分の床面積で判断します。店舗併用住宅の場合は、建物全体の床面積、夫婦等で共有する建物の場合は、他の人の共有持ち分も含めた全体の床面積で判断。
※4:勤務先からの借入金の場合は、1%以上の金利を支払う契約になっている事が必要です。無利子又は1%未満の金利の場合は適用対象外。また、親族や知人からの借入金の場合は金利を支払っていたとしても対象外です。
(参照元:国税庁「タックスアンサー 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合」)
中古住宅の場合
購入する物件が中古の場合は、以下のいずれかに該当する必要が有ります。
- 築20年(マンションなどの耐火建築物の場合は25年)以内
- 地震に対する安全上必要な構造方法に関する技術的基準又はこれに準ずるもの (耐震基準)に適合する建物
- 平成26年4月1日以降に取得した住宅で、取得の日までに耐震改修の申請をし、かつ、居住を開始する日までに耐震改修により耐震基準に適合することにつき証明がされた建物
(参照元:国税庁「タックスアンサー 中古住宅を取得した場合」)
3,000万円の特別控除と住宅ローン控除の併用はできない!
住宅ローン控除の要件の5つ目(居住開始年とその前後2年間の間に、譲渡の特例等を受けていない事)は重要なので、少し書き足しておきますね。
居住用の住宅を売って利益が出たとしても、利益が3,000万円までであれば特別控除が有るので税金が発生しません(「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と言います)。
また、10年以上住んでいたマイホームを売る場合は、通常の税率よりも低い税率が適用される特例も有ります(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例)。
しかし、これらの特例と住宅ローン控除の併用は出来ないのです!どちらか片方を選択して適用する事になります。
前に住んでいた家を売る際にこれらの特例を利用した場合、同じ年に新しく家を買うと住宅ローン控除が受けられないので注意が必要ですね。
住んでいた家を売った際の譲渡所得が少額なのであれば、敢えて3,000万円の特別控除を使わずに住宅ローン控除を選択した方が有利なケースも有りますよ。
どちらを選んだ方が有利なのかは、事前にしっかりと検討する事をオススメします。
住宅借入金等特別控除で控除出来る期間や控除額
住宅ローン控除は、毎年の住宅ローンの年末残高合計額を基に算出します。但し、住宅ローンの年末残高の合計額よりも住宅の取得対価や費用の方が少ない場合は、その取得対価や費用の額が基準となるので注意が必要です。
控除出来る期間や控除額は、居住の用に供した年によって異なるので、以下で一覧にして見てみましょう。
居住を開始した年 | 控除期間 | 控除額の計算 (控除限度額) | 控除額の計算 (控除限度額)つづき |
---|---|---|---|
平成19年1月1日〜平成19年12月31日 | ①10年 ②15年 (※1) | ①1~6年目 年末残高等×1% (25万円) ②1~10年目 年末残高等×0.6% (15万円) | ①7~10年目 年末残高等×0.5% (12万5千円) ②11~15年目 年末残高等×0.4% (10万円) |
平成20年1月1日〜平成20年12月31日 | ①10年 ②15年 (※1) | ①1~6年目 年末残高等×1% (20万円) ②1~10年目 年末残高等×0.6% (12万円) | ①7~10年目 年末残高等×0.5% (10万円) ②11~15年目 年末残高等×0.4% (8万円) |
平成21年1月1日〜平成22年12月31日 | 10年 | 年末残高等1% (50万円) | - |
平成23年1月1日〜平成23年12月31日 | 10年 | 年末残高等1% (40万円) | - |
平成24年1月1日〜平成24年12月31日 | 10年 | 年末残高等1% (30万円) | - |
平成25年1月1日〜平成26年3月31日 | 10年 | 年末残高等1% (20万円) | - |
平成26年4月1日〜平成31年6月30日 | 10年 | 年末残高等×1% (40万円) (※2) | - |
※1:10年又は15年のいずれかを選択する事が出来ます。
※2:特定取得に該当する場合。それ以外の場合の控除限度額は20万円です。
また、平成21年6月4日〜平成31年6月30日までの間に取得する建物が以下のいずれかに該当する場合、控除額は下表の様に増額されます。
- 認定長期優良住宅に該当する家屋(長期優良住宅の普及の促進に関する法律)
- 低炭素建築物に該当する家屋(都市の低炭素化の普及の促進に関する法律)
- 低炭素建築物とみなされる特定建築物に該当する家屋(都市の低炭素化の普及の促進に関する法律)
居住を開始した年 | 控除期間 | 控除額の計算 (控除限度額) |
---|---|---|
平成21年6月4日〜平成23年12月31 | 10年 | 年末残高等×1.2% (60万円) |
平成24年1月1日〜平成24年12月31日 | 10年 | 年末残高等×1% (40万円) |
平成25年1月1日〜平成26年3月31日 | 10年 | 年末残高等×1% (30万円) |
平成26年4月1日〜平成31年6月30日 | 10年 | 年末残高等×1% (50万円)※ |
※:特定取得に該当する場合。それ以外の場合の控除限度額は20万円です。
なお、認定住宅を新築等した場合に認定住宅新築等特別税額控除の適用を受ける場合は、住宅ローン控除を受ける事は出来ないので注意が必要です。
住宅ローン控除を受ける為の手続
ここでは、住宅ローン控除を受ける際の手続について解説していきます。
まず、初めて住宅ローン控除を受ける場合、必ず納税地(原則として住所地)の所轄税務署で確定申告しなければなりません。これは、所得が給与のみで会社から年末調整を受けている方も同じです。
確定申告の際に必要な書類は以下の通り。
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住民票の写し(平成28年1月1日以降に居住を開始した場合は不要)
- 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書(金融機関から送られて来ます)
- 家屋・敷地の登記事項証明書、請負契約書の写し、売買契約書の写し等(※)
- 源泉徴収票(給与所得者の場合)
- 各種認定通知書の写し、住宅用家屋証明書等(認定住宅や低炭素住宅等の特例を利用する場合)
※:「新築又は取得年月日」「取得対価の額」「家屋の床面積が50平方メートル以上であること」「取得等が特定取得に該当する場合には、その該当する事実」が分かる資料が必要です。なお、登記簿は窓口や郵送の他にオンライン請求も出来ます。
なお、初年度は色々な資料を提出しなければならないですが、2年目以降は以下の書類だけでOKです。
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
また、給与所得者については、2年目以降に確定申告をする必要は有りません。以下の書類を勤務先に提出すれば年末調整で住宅ローン控除を受ける事が出来ます。
- 年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書 ※
- 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 ※
- 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
※:税務署から送られて来る書類で、セットになっています(参照元:国税庁)。なお、住宅ローン控除が適用出来る年数分入っているので、通常は9枚(初年度は確定申告しているので残りの9年分)ですね。該当する年度の分を勤務先に提出しましょう。
税額控除と所得控除との違い〜何から控除するのかがポイント!〜
税額控除について上で見て来ましたが、同じく個人の所得税が減るものとして、医療費控除や保険料控除といった「所得控除」が有ります。
税額控除と所得控除の何が違うのかいまいちピンと来ない方も多いでしょうが、簡単にいうと対象の金額を何から控除するのかが違います。
所得税の金額は「所得合計から所得控除を引いた残額(課税所得金額)に税率を掛けて算出」します。簡単に計算式を書くと以下の様な感じですね。
注:平成25年から平成49年までは、所得税の他に基準所得税額の2.1%が復興特別所得税額として課税されます。この記事では、便宜上復興特別所得税は無視しています。
税額控除は、その名の通り「税額」から控除します。つまり、上記の計算式で計算した税額から直接税額控除額を差し引く事が出来るのです。
例えば、計算した所得税が10万円の方が税額控除として5万円受ける場合、所得税額は5万円(10万円−5万円)ですね。
一方の所得控除は、税額ではなく「所得」から控除します。上の計算式上の所得控除がまさしくそれなのですが、税額控除と違って税額が直接減るのではなく、税率を掛ける前段階の所得合計をが減ります。
例えば、所得合計が200万円の方が所得控除50万円を受ける場合、所得税は7万5千円{(200万円−50万円)×5%}です。仮に、所得控除の額が100万円になると、所得税額は5万円{(200万円-100万円)×5%}ですね。
所得控除が50万円増えても所得税額は2万5千円しか減っていませんね。所得から所得控除を引いた額に税率を掛けるので、税額控除と違って税金に対するインパクトは少ないのです。
つまり、同じ50万円の控除が有るといっても、税額控除と所得控除とでは最終的な税額の軽減額は大きく異なるという訳です。同じ金額であれば、税額控除の方が圧倒的にお得ですね。
実際の確定申告書で、所得控除と税額控除がどの様になっているのか見てみましょう。
注:ここでは給与所得者を前提に確定申告書Aを使っています。事業所得や不動産所得等が有る方は確定申告書Bを使う様にして下さい(参照元:国税庁)。
5番の合計欄が所得合計ですね。所得控除の場合はここから20番の合計額を控除する事になります。所得合計から所得控除合計を控除した21番が課税所得合計で、ここの金額に対して所得税が課税されます。
この例では所得税額が196,000円となっていますね、この金額から税額控除が控除されます。政党等寄附金等特別控除として14,400円が記載されていますが、税額控除なのでその金額がそのまま税額から控除されるので、控除後の所得税額は181,600円です。
参考:青色申告をしている方が受ける事の出来る「青色申告特別控除」や給与所得から控除される「給与所得控除」は、どちらも所得から控除されるものですが、各所得の計算上控除されるものなので、ここでいう所得控除とは異なる性質のものです。
所得控除は適用される税率によって税額大きく異なる!
所得税には超過累進税率が採用されているので、適用される税率は所得の金額によって5%〜45%と差があります(参照元:国税庁「タックスアンサー 所得税の税率」)。
具体的には、所得の金額に応じて以下の税率が適用されます。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
参考:所得税額は「課税所得金額×税率−控除額」で算出。税率を掛けてから控除額を差し引くので、ここでいう税率は名目税率に過ぎずません。実質税率は「所得税額÷課税所得金額×100」で算出できます。
つまり、同じ所得控除額だったとしても適用される税率によって減少する所得税の額は異なるのです。
例として、所得合計が300万円・600万円・900万円・1200万円の人について、所得控除が38万円(基礎控除のみ)のケースと100万円のケースとで税負担額がどれくらい変わるのかを見てみましょう。
所得控除が38万円(基礎控除)のみだった場合
まず、所得控除が基礎控除の38万円のみだった場合の所得税額は、以下の通り。
所得合計 | 所得控除 | 課税所得金額 | 所得税額 |
---|---|---|---|
3,000,000 | 380,000 | 2,620,000 | 164,500 |
6,000,000 | 380,000 | 5,620,000 | 696,500 |
9,000,000 | 380,000 | 8,620,000 | 1,346,600 |
12,000,000 | 380,000 | 11,620,000 | 2,298,600 |
所得控除が100万円だった場合
続いて、所得控除が100万円だった場合の所得税額は以下の通りです。
所得合計 | 所得控除 | 課税所得金額 | 所得税額 |
---|---|---|---|
3,000,000 | 1,000,000 | 2,000,000 | 102,500 |
6,000,000 | 1,000,000 | 5,000,000 | 572,500 |
9,000,000 | 1,000,000 | 8,000,000 | 1,204,000 |
12,000,000 | 1,000,000 | 11,000,000 | 2,094,000 |
両者の所得税額の比較
両者の税額を比較してみると、以下の様な感じになります。
所得合計 | 税額(控除38万) | 税額(控除100万) | 差額 |
---|---|---|---|
3,000,000 | 164,500 | 102,500 | 62,000 |
6,000,000 | 696,500 | 572,500 | 124,000 |
9,000,000 | 1,346,600 | 1,204,000 | 142,600 |
12,000,000 | 2,298,600 | 2,094,000 | 204,600 |
所得が大きければ大きい程、所得税の減少額が多いという事が分かりますね。
所得税と住民税とで税額控除は違う!?
税額控除について色々と解説して来ましたが、これらは所得税に関する税額控除です。所得税の申告をすると、市町村役場にも申告データが行く様になっており、役所の方が住民税の計算をしてくれるのですが、住民税にも税額控除が用意されています。
しかし、所得税と住民税とで制度内容が異なるものも有るので、以下で両者の税額控除で違う点をピックアップして見ていきましょう。
住宅ローン控除
上で所得税の住宅ローン控除について紹介しましたが、住民税では少し扱いが異なるので見てみましょう。
住民税については、平成21年から平成31年6月30日までの間に居住を開始し、所得税で住宅ローン控除を受けている方のうち、所得税から控除しきれなかった分を住民税から控除する事となっています(参照元:総務省)。
控除額は、以下の計算式によって算出します。
なお、(A)が「前年分の所得税の課税総所得金額等の5%(97,500円が限度)(B)」を超えた場合は、(B)の金額となります。
注:平成26年から平成31年6月30日までの間に居住を開始し、当該住宅が特定取得(8%or10%の消費税が適用される場合)の場合、(A)が「前年分の所得税の課税総所得金額等の7%(136,500円が限度)(C)」を超えると、控除額は(C)の金額となります。
何だかややこしく感じるかもしれないですが、基本的には源泉徴収票をみて「住宅借入金等特別控除可能額」から「住宅借入金等特別控除の額」を控除した残額が住民税の住宅ローン控除額と考えておくと良いでしょう。
参考:住民税から控除する金額は、年末調整や所得税の確定申告書類等を基に自治体が計算をするので、改めて何かを提出する必要は有りません。
配当控除
配当控除は、配当等を受けた場合に法人税と所得税での二重課税を防ぐためのものです。所得税においては、上述の様に基本的に配当所得の10%若しくは5%が配当控除として控除する事が出来ます。
一方で、住民税にも配当控除は有るのですが、控除率が以下の様に異なっています(参照元:地方税法附則第5条)。
注:申告分離課税を選択した場合は適用されません。
利益の配当等
課税所得金額 | 市民税 | 県民税 |
---|---|---|
1,000万円以下の部分 | 1.60% | 1.20% |
1,000万円を超える部分 | 0.80% | 0.60% |
特定証券投資信託(外貨建等証券投資信託以外)の収益の分配
課税所得金額 | 市民税 | 県民税 |
---|---|---|
1,000万円以下の部分 | 0.80% | 0.60% |
1,000万円を超える部分 | 0.40% | 0.30% |
特定証券投資信託(外貨建等証券投資信託)の収益の分配
課税所得金額 | 市民税 | 県民税 |
---|---|---|
1,000万円以下の部分 | 0.40% | 0.30% |
1,000万円を超える部分 | 0.20% | 0.15% |
国や政党等に対する寄附金の控除
所得税では、国に対する寄附金や政党等に対する政治活動に関する寄附金は、寄附金控除として所得控除(政党等に対するものは税額控除も)が認められています。
一方で、住民税においては国に対する寄附金も政党等に対する寄附金も税額控除の対象外となっているので、寄附をしても税制上のメリットは受けられません。
(参照元:総務省「個人住民税における寄附金税額控除の対象寄附金」)
調整控除
住民税の所得控除は、人的控除(扶養控除や基礎控除等)が所得税と比べると低めに設定されているので、税の負担が所得税よりも増えてしまいます。
そこで、所得税と住民税の人的控除の差による課税負担の影響を小さくするべく住民税の所得割額を一定金額控除する為に設けられたのが、調整控除です。
調整控除の金額は、課税所得金額によって2つの計算方法のどちらかを使って算出されます(地方税法第37条・314条の6)。
住民税の課税所得金額が200万円以下の場合
以下のいずれか小さい金額
- ①人的控除額の差額合計×5%
- ②住民税の課税所得金額×5%
住民税の課税所得金額が200万円超の場合
以下の計算式によって算出した金額
注:計算した結果2,500円未満となった場合は2,500円とする。
ふるさと納税は所得控除?税額控除?
最近流行りの節税対策として「ふるさと納税」が有りますよね。自治体に寄附をすると、寄附のお礼として各地の特産物などが貰えるだけでなく、税金も安くなるという至れり尽くせりの制度なので人気が有ります。
ふるさと納税は、確定申告の際に所得控除なのか税額控除なのかを悩まれる方が多い様ですが、これは他の控除項目と違って少し特殊です。
まず所得税に関してですが、ふるさと納税は寄附金に該当するので寄附金控除の対象です。従って、以下の計算式によって算出された額が所得税から控除される事になります。
次に、住民税ですが、住民税についても寄附金控除が有るので所得税同様に以下の計算式で算出した額が住民税から控除されます。
これだけれあれば所得控除でおしまいなのですが、ふるさと納税はこれだけではありません。さらに、以下の計算式で算出した分を住民税から控除する事が出来るのです。
イメージとしては、「所得控除で減額出来なかった税額分を税額控除で控除する」という感じですね。その結果、上限は有るものの、寄附をした金額から自己負担額である2,000円を除いた全額が所得税と住民税から控除される事になります。
(参照元:総務省「寄附金税額控除の概要(個人住民税)」)
まとめ
いかがでしたか?税額控除には色々なものが有りましたね。税額控除は確定申告書に記載しないと受ける事が出来ません。適用可能なものが有る場合は、面倒くさがらずにしっかりと確定申告をして控除を受ける様にしましょう。
なお、住宅ローン控除などを受け忘れた年が有る場合でも5年以内であれば、遡って還付を受ける事が出来ます(参照元:国税庁「所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続」。これを機に、過去に受け忘れた税額控除が無いか確認してみるのも良いですね。