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株式会社では、利益が残った場合その利益を株主に対して配当する事が出来ます。特に上場会社の株に投資している方は、株の値上り益(キャピタルゲイン)だけでなく、配当によるインカムゲインを狙っている方も多いですよね。

ところで、儲かっていれば会社はいくらでも配当する事が出来るのでしょうか?

いえ、そんな事は有りません!上限無く配当をしてしまうと、会社経営が成り立たなくなるので、決まった金額以上の配当金を支払う事は出来ないです。

参考:配当可能な金額以上に配当をした場合は、違法配当(蛸配当)として責任を問われる可能性が有ります(会社法第462条)。

では、どの様にして配当が出来る上限額を計算するのでしょうか?ここでは、株式会社の剰余金の分配可能額・利益計算の仕方について見ていきましょう。

この記事では、中小企業を前提に解説を進めていきます。
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株式会社は分配可能額までしか配当出来ない!

提案する女性

本来的には、剰余金の配当というと株主に対して「利益」を還元するものなのですが、実務上は必ずしも利益が出ていないくても健全な財政状態を維持出来るのであれば、配当しても問題有りません。

但し、冒頭で書いた様に、配当の額に制限が無いと株主は自己の利益の為に会社のお金を全て配当として払い出してしまいかねないですよね。そこで、会社法上は「分配可能額」として一定の歯止めをきかせています(会社法第461条)。

なお、従来は決算に伴う利益処分としての配当と中間配当の2回しか配当をする事が出来なかったのですが、会社法の施行により、株式会社は株主総会の決議を経れば事業年度中に何度でも剰余金の配当をする事が可能です(会社法第453条、454条1項)。

参考:従来は旧商法において「配当可能限度額」という言葉を用いていましたが、会社法の施行によりいつでも配当可能になった事に合わせて、呼び方が「分配可能額」に変わりました。

中小企業版:分配可能額の計算方法【エクセル有り!】〜利益剰余金を全て配当出来る訳では無い!?〜

電卓とお金

分配可能額の計算はとても複雑です。後で参考に記載していますが、1回見ただけで理解出来る方はあまりいないと思います。

とはいえ、中小企業の場合は複雑な勘定科目が滅多に登場しないでしょうから、そんなに難しい計算方法を理解する必要はなく、以下の計算式を覚えておけば基本的には事足りるでしょう。

分配可能額=その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額―自己株式の帳簿価額

実際に以下の様な簡単な貸借対照表(純資産の部のみ)の例で、分配可能額を計算してみましょう。

貸借対照表

上の計算式に当てはめてみると、分配可能額は2,300千円(1,000千円+1,600千円−300千円)となります。

いかがですか?「分配可能額の計算は難しい!」という先入観が有る方も多いでしょうが、中小企業の場合はとても簡単に計算する事が出来ますね。

簡単な計算式ですが、念のためにエクセルファイルを置いておきますね。

分配可能額の計算(簡易版).xlsx

ちなみに、分配可能額の計算には「資本金」や「資本準備金()」が含まれないですが、これは配当が獲得した利益から払う事が原則なので、「株主との取引から生じたお金を配当に回すのはおかしい」からです。

:会社法第445条2項・3項に基づき計上されるもので、株主から払込まれた金額のうち1/2までを資本準備金として扱う事が出来ます。会社法や税法上、資本金の金額で判断される事項が多いので、「株主からのお金は必ずしも資本金にしなくてもいいですよ」という趣旨ですね。

また、「利益準備金」は配当時に積立てたお金ですが、これは配当により会社財産が無くなってしまわない様に会社債権者保護の為に設けられたものです。

せっかく、債権者の為に確保しているお金を配当金として払い出してしまっては、債権者保護が図れませんよね。従って、利益準備金についても分配可能額の計算には含まれません。

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配当時の注意!純資産額が300万円未満の場合は配当不可!?

会社とお金

剰余金の配当時には、以下の制限や注意点が有ります。

  • 分配可能額には、決算日から配当をする日までの期間損益は含まれない(会社法461条第2項2号)。
  • 純資産の金額が300万円未満or配当によって300万円未満になる様な場合は、配当は出来ない(会社法458条)。
  • 配当した場合、(資本金の1/4に達するまで)配当金額の1/10を利益準備金等として積立てなければならない(会社法第445条第4項)。

中でも純資産の金額が300万円以上必要という点については、中小企業は注意が必要ですね。資本金の額が小さくて過去に赤字が出ている場合は、すぐに純資産の額が300万円を切ってしまう事が考えられますからね・・・。

分配可能額の計算は簡単に出来ても、財政状態によってはそもそも配当が出来ないケースも有る事を知っておきましょう。

参考:本来的な分配可能額の計算方法

上では中小企業の分配可能額について紹介しましたが、本来的にはどの様にして算出するのかを、参考までに以下で計算方法だけ紹介しますね。

分配可能額を算定する際には、以下の3ステップを経る事になります。

  • ①決算日時点の剰余金の額を算定
  • ②決算日から配当をするまでの剰余金の増減を反映させて、配当時点の剰余金の額を算定
  • ③配当時点の剰余金の額から自己株式の帳簿価格等を引いて分配可能額を算定(分配可能利益の算定)

①決算日時点の剰余金の額を算定

決算書

まずは、決算日時点(事業年度末日)の剰余金の額を計算しましょう。以下の計算式で算出出来ます。

「資産の額」+「自己株式の帳簿価額の合計額」−「負債の額」−「資本金・準備金」−「法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額」

ややこしく感じるかも知れませんが、分かりやすく書くと決算書上の「その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額」が剰余金の額という事です。

なお、「法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額」は、会社計算規則第149条で規定されており、以下の計算式で得られた金額の事です。

「資産の額」+「自己株式の帳簿価額の合計額」−「負債の額」−「資本金・準備金」−「その他資本剰余金・その他利益剰余金の額」

②決算日から配当をするまでの剰余金の増減を反映させて、配当時点の剰余金の額を算定

次に、剰余金を分配する時点での剰余金の額を算定します(会社法第446条2〜7号)。

これは以下の計算式で算出されます。

「①で算定した剰余金の額」+「事業年度末日以降の自己株式処分損益」+「資本金・準備金の減少による損益」+「自己株式の消却額」−「剰余金の配当」−「法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額」

なお、「法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額」は会社計算規則第150条で、以下の様に規定されています。

①:最終事業年度末日後の剰余金から資本金の額又は準備金への振替た金額
②:最終事業年度末日後に剰余金の配当を実施した場合の準備金積立額
③:最終事業年度末日後に行う吸収型再編行為時に処分する自己株式の処分差額
④:最終事業年度末日後に行う吸収分割又は新設分割時に剰余金の額を減少した場合の当該剰余金減少額
⑤:最終事業年度末日後に行う吸収型再編受入行為時のその他資本剰余金及びその他利益剰余金の増減額

③配当時点の剰余金の額から自己株式の帳簿価格等を引いて分配可能額を算定(分配可能利益の算定)

最後に、分配可能額ですね。これは、以下の計算式で算出されます。

「②で算定した分配時点での剰余金の額」−「分配時点の自己株式の帳簿価額」−「事業年度の末日以降に自己株式を処分した場合の処分の対価」−「その他法務省令で定める額」

なお、「その他法務省令で定める額」は会社計算規則第158条で以下の様に規定されています。

①:最終事業年度末日の「のれん等調整額」
②:最終事業年度末日の貸借対照表の「その他有価証券評価差損」
③:最終事業年度末日の貸借対照表の「土地再評価差損」
④:株式会社が連結配当規制適用会社である場合の「連結配当規制控除額」
⑤:臨時計算書類(株主総会承認済)を2回以上作成した場合の「直前臨時決算年度以外の臨時損益計算書の損益計算書に計上された純利益等」
⑥:剰余金の配当後に純資産が3百万円を下回る場合の「資本金及び準備金等の調整額」
⑦:臨時決算期間中の吸収型再編受入行為又は特定募集に際して処分する自己株式の対価の額
⑧:最終事業年度末日以後に不公正発行に伴う支払義務の履行により増加したその他資本剰余金の額及び最終事業年度のない株式会社が成立の日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
⑨:最終事業年度末日以降に株式会社が自己株式を取得対価として該株式会社の株式を取得した場合における、当該取得した株式の帳簿価額から当該取得した株式の株主に交付する⑩:自己株式以外の財産の帳簿価額を減じた額
⑪:最終事業年度の末日後の吸収型再編受入行為又は特定募集に際して処分する自己株式の処分対価の額

参考:資産の部に「のれんが」計上されている場合は、のれん等調整額(のれんの金額×1/2+繰延資産)と資本等金額(資本金+資本準備金+利益準備金)を比較して、分配可能額から控除します。

まとめ

いかがでしたか?分配可能額と聞くと、それだけで苦手意識を持ってしまう方もいるでしょうが、中小企業に限って考えてみるととても簡単に計算する事が出来ます。

場合によっては、役員報酬よりも配当で会社のお金を払い出した方が得なケースも有るので、分配可能額の計算方法は是非知っておきたいですね。

【試算例付】役員報酬ではなく配当金で受け取る方が有利になる場合も有る!?

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